高齢化社会の進展や障害者支援の重要性が高まるなか、判断能力が不十分な方々への支援体制の整備が急務となっています。成年後見制度は、こうした方々の権利を守り、安心して生活できる環境を整えるための法的支援制度です。一方、福祉サービスは日常生活の支援を担う重要な役割を果たしています。両者が連携することで、より包括的で継続的な支援が可能となります。本記事では、成年後見制度の基本情報と福祉サービスとの連携の実態、課題、そして今後の取り組みについてご紹介します。
成年後見制度の基本的な仕組み
・制度の概要と目的
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が不十分な方に対して、家庭裁判所が選任した後見人が法律行為を代行・支援する制度です。本人の財産管理や福祉サービスの契約などを適切に行うことで、本人の権利を守り、生活の安定を図ることが目的です。
・三類型の後見制度とは
成年後見制度には「後見」「保佐」「補助」の三類型があります。判断能力の程度に応じて制度が選択され、後見人が行う支援の範囲も異なります。たとえば「後見」は判断能力がほとんどない方に対して全面的な支援を行い、「保佐」は必要に応じて重要な行為の支援をし、「補助」は一部の法律行為のみを支援します。
・利用対象者と申立て方法
対象となるのは、認知症や知的障害、精神障害などにより判断能力が低下した方です。申立ては本人、配偶者、四親等内の親族、市町村長などが家庭裁判所に行います。申立て後、医師の診断書などをもとに審理が行われ、後見人が選任されます。
・任意後見制度の活用
任意後見制度は、判断能力があるうちに将来に備えて後見人を自ら選任する制度です。公正証書で契約を交わし、本人の意思を尊重した支援が可能となります。近年では、認知症の予防的対策として注目されています。
福祉サービスとの連携の重要性
・福祉サービスの種類と役割
福祉サービスには、障害福祉サービス(居宅介護、就労支援など)や高齢者福祉サービス(訪問介護、デイサービスなど)があります。これらのサービスは、本人の生活の質を向上させるために不可欠です。成年後見制度と連携することで、サービスの利用が円滑に進み、本人の権利擁護が強化されます。
・連携の具体的な事例
たとえば、知的障害のある方がグループホームに入居する際、契約手続きが難しい場合があります。このような場面で後見人が契約を代行し、福祉サービス事業者と連携することで、本人の希望に沿った生活環境が整えられます。また、医療機関との連携も重要であり、後見人が診療同意を行うケースもあります。
・地域包括支援センターとの協働
地域包括支援センターは、高齢者や障害者の支援を包括的に行う機関です。成年後見制度の利用者に対して、福祉サービスの情報提供や相談支援を行い、後見人との連携を図ることで、より効果的な支援が可能になります。
制度運用上の課題と改善の取り組み
・利用促進のための課題
成年後見制度は有用な制度ですが、申立て手続きの煩雑さや費用負担、後見人の人材不足などの課題があります。特に親族がいない場合、後見人の選任が難しくなることがあります。また、制度の存在自体を知らない方も多く、利用が進まない要因となっています。
・市町村による支援体制の整備
近年では、自治体が「市民後見人」の養成を進めるなど、地域での支援体制の強化が図られています。市民後見人とは、一定の研修を受けた一般市民が後見人として活動する制度で、地域に根ざした支援が可能になります。
・法改正と制度の見直しについて
2022年には成年後見制度の見直しに関する議論が進められ、本人の意思をより尊重する制度設計が求められています。今後は、福祉サービスとの連携をさらに強化し、制度の柔軟な運用が期待されています。
今後の展望と制度の進化
・第二期成年後見制度利用促進基本計画
「第二期成年後見制度利用促進基本計画」とは、判断能力が不十分な方々の権利擁護を支える「成年後見制度」の利用を、より効果的かつ地域に根ざした形で促進するための国の基本方針です。令和4年度から令和8年度までの5年間を対象としたもので、福祉と司法の連携強化、意思決定支援の充実、中核機関の機能強化などが掲げられています。地域共生社会の実現に向けて、制度の運用改善が進められています。
・包括的支援体制の構築
福祉、司法、行政が連携した包括的な支援体制の構築が求められています。本人を中心とした支援を実現するためには、制度間の垣根を越えた協力が不可欠です。地域ごとの実情に応じた柔軟な対応が鍵となります。
・デジタル化と情報共有の推進
制度の利便性向上のため、デジタル化による情報共有や手続きの簡素化が進められています。ポータルサイトの活用や研修動画の配信などにより、関係者の理解とスキル向上が図られています。
外部信頼リンク
• 厚生労働省:成年後見制度の見直しと福祉連携に関する資料
https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/001291504.pdf
• 東京都社会福祉協議会:地域福祉権利擁護事業と成年後見制度
https://www.tcsw.tvac.or.jp/kenri/
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