精神障害者支援の現場から見えること

現代社会において、精神障害者への支援はますます重要性を増しています。しかし、精神障害は外見からは分かりにくく、周囲の理解や配慮が十分でない場合も少なくありません。当事者が地域で安心して暮らし、社会参加を実現する為には、適切な支援体制と理解の促進が不可欠です。

本記事では、障害の種類別に精神障害者支援の実態や課題について事例や制度を交えながら解説します。

1.   精神障害の種類と特徴

精神障害には数多くの種類がありますが、ここではその内の5つを取り上げて紹介します。

1-1. 統合失調症の特徴と支援

幻覚や妄想、思考の纏まりのなさ、感情表現の乏しさ、意欲低下等多様な症状が現れる精神障害です。陽性症状(幻覚・妄想)と陰性症状(無気力・感情鈍麻)、認知機能障害(集中力や記憶力の低下)に分けられます。

支援のポイントは、本人の話を否定せず受け止める事、症状の悪化サイン(睡眠障害・身だしなみの変化・会話のまとまりのなさ等)に早めに気づく事、本人の「できる部分」を認めて過保護にも批判的にもなりすぎない事です。また、服薬管理や生活リズムの安定、社会復帰への段階的なサポートが重視されています。継続的な治療と焦らず見守る姿勢が重要ですが、家族や支援者自身も無理をせず、相談窓口やリフレッシュの時間を持つ事も大切です。

1-2. 気分障害(うつ病・双極性障害)の特徴と支援

気分の浮き沈みが通常の範囲を超えて日常生活に大きな影響を及ぼす精神疾患です。代表的なものに「うつ病」と「双極性障害」があります。

うつ病は、持続的な気分の落ち込みや興味・喜びの喪失、疲労感、集中力の低下、睡眠や食欲の変化等が特徴です。自責や希死念慮が現れる事もあります。単なる「気の持ちよう」ではなく、脳内の神経伝達物質の不調等が関与しています 。

双極性障害は、うつ状態と躁(軽躁)状態という両極端な気分の波を繰り返す病気です。躁状態では気分が異常に高揚し、活動的・多弁・衝動的な行動が目立ちます。うつ状態ではうつ病と似た症状が現れます。

支援のポイントは本人の苦しさに共感し、無理に励まさずに寄り添う事。また治療の継続や服薬管理、規則正しい生活リズムのサポートが重要です。危険な兆候(自傷や自殺念慮)があれば早めに専門家に相談し、偏見を持たず温かく接する事が回復への支えとなります。

1-3. 不安障害の特徴と支援

不安障害は漠然とした不安や心配が長期間続き、集中力の低下や動悸、不眠など心身に影響を及ぼす疾患です。不安を感じる状況を避ける回避行動がよく見られます。

支援のポイントとしては本人の不安やこだわりを否定せず、安心できる環境を整えることが大切です。まずは症状や苦しさを理解し、共感的に話を聴くことが基本です。呼吸法やリラクゼーション、規則正しい生活リズムのサポート、段階的な行動練習等が有効です。小さな成功体験を積み重ねて自信を回復できるよう、無理のない目標設定を心がけます。

1-4.発達障害の特徴と支援

発達障害は脳の発達に関係する障害です。例えば、ASD(自閉症)は相手の表情や声のトーンから感情を読み取る事が難しく、社会的な関係づくりが苦手な傾向があります。感覚過敏(鈍麻)がある事も特徴の一つです。こだわりが強く、予測できない変化に不安を感じやすい面もあります。

ADHD(注意欠如多動症)は不注意傾向として集中力が続きにくかったり、忘れ物や約束の失念が頻繁に起こったりします。多動・衝動傾向としては落ち着きがなく、じっとしているのが苦手な面があります。また感情が高ぶりやすく、衝動的で無計画な行動が目立ったりもします。

支援では、まず本人の特性を理解して否定せずに受け止める姿勢が重要です。抽象的な指示ではなく、具体的で視覚的な情報提示が有効です。環境調整(静かな場所、スケジュールの見える化など)や、本人のペースに合わせた関わり方が求められます。また、自己決定の機会を保障し、選択肢を提示して本人が選べるようにする事も大切です。本人の得意なことを活かし、自信を育てる支援が回復と成長に繋がります。

1-5. てんかんと精神症状の関連

てんかんは、脳の神経細胞が異常な電気活動を起こすことで発作を繰り返す慢性疾患です。発作の種類は多様で、意識を失う・体が硬直する・手足が痙攣する・突然ぼんやりする等、症状は人によって異なります。発作は数秒から数分で終わることが多いですが、長時間続く場合もあります。

厳密には精神障害ではありませんが、うつ病や不安障害、幻覚・妄想等の精神症状を併発する事があります。

支援の基本は発作への理解と安全な環境作りです。発作時には慌てず、周囲の危険物を除き、体を強く押さえずに見守る事が重要です。日常生活では、規則正しい生活や服薬管理を支援し、ストレスや睡眠不足を避ける工夫が求められます。職場や学校では、発作の特徴や対応方法を共有し、偏見や誤解を防ぐ啓発も大切です。医療面では抗てんかん薬による治療が中心で、必要に応じて手術や食事療法なども検討されます。

2. 支援制度とサービスの活用

2-1. 障害者総合支援法の概要

障害者総合支援法は全ての障害者が地域で安心して暮らせるように支援することを目的とした法律です。主なサービスは就労移行支援、就労継続支援、生活介護の支援等があります。利用には市区町村への申請が必要で、本人の希望や状況に応じた支援計画が作成されます。

2-2. 精神障害者保健福祉手帳の活用

精神障害者保健福祉手帳は障害の程度に応じて交付され、各種福祉サービスや税制優遇、就労支援等の利用が可能です。1級~3級の等級によって受けられる支援の範囲が異なり、更新も定期的に行う必要があります。

2-3. 地域生活支援拠点の役割と相談支援

緊急時の受け入れや相談支援、家族支援等を担う施設です。精神障害者が地域で安心して暮らす為のセーフティネットとして機能しています。自治体ごとに設置状況やサービス内容が異なる為、地域の情報収集が重要です。

3. 支援現場の課題と今後の展望

3-1. 偏見と孤立の解消に向けて

精神障害に対する社会的な偏見は未だ根強く、それにより当事者が孤立しやすい現状があります。支援現場では当事者の声を尊重し、地域住民への啓発活動やピアサポート(同じ経験を持つ人による支援)を導入する等孤立を防ぐ工夫が進められています。

3-2. 支援人材の確保と育成

精神障害者支援には医療機関と精神保健福祉士や作業療法士等の専門職の関与が不可欠ですが、肝心の人材が不足しがちであるという課題があります。現場では、研修や専門家による指導を通じて支援の質向上に努めています。

3-3. 地域社会との連携と今後の展望

高齢者福祉で進められてきた地域包括ケアシステムは、精神障害者支援にも応用されています。医療・福祉・地域住民が連携し、切れ目ない支援体制を構築する事が目指されています。

まとめ

精神障害者支援の現場では、種類ごとの特性に応じた多様な支援が展開されています。一方で、偏見や人材不足、連携の難しさ等課題も多く残されています。今後は、地域社会全体での理解と協力、当事者の声を活かした支援体制の充実が求められます。

外部信頼リンク

厚生労働省 障害者総合支援法: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/sougoushien/index.html

東京都福祉保健局 精神障害者地域移行支援: https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/kokoro/chiikiikou/index.html

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